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たった1人の女性を通して、時代が見えることがある。
かつて、国民的スターの山口百恵は「時代と寝た女」と評され、彼女の生き様がそのまま時代の移ろいを象徴した。
同様に、80年代後半から90年代半ば??日本のテレビドラマが最も輝いた時代に、それとシンクロするように生きた女性がいる。中山美穂である。
彼女は85年にTBSで放映されたドラマ「毎度おさわがせします」で彗星のようにデビューし、当初はその早熟なツッパリキャラで注目を浴びるが、やがてオールラウンドな魅力を開花させ、瞬く間にトップアイドルへと上り詰める。この時期に出演したドラマは、初主演ドラマの「な・ま・い・き盛り」を筆頭に、「ママはアイドル」「おヒマなら来てよネ!」など、いずれも王道アイドル路線である。
そんな彼女の最初の転機になった作品が、1989年1月のトレンディドラマ全盛期に主演した「君の瞳に恋してる!」。脚本は、彼女の初主演ドラマも手掛けた伴一彦。
月9史上最年少の18歳で主演したこのドラマで、彼女は初めて等身大の役を演じる。博多から上京し、代官山に憧れる女子大生。好きな人の前では素直になれず、時には背伸びして大人の男性にも憧れる、ごく普通の女の子。そんな等身大・中山美穂に、視聴者は共感する。
ルームメイトで同郷の友人役に、菊池桃子と藤田朋子。反発しながらも惹かれあう相手役に前田耕陽。憧れのラジオ局ディレクターに石田純一。
開局したばかりのJ-WAVEが頻繁に登場したり、2人暮らし用の代官山のミングルを友人たちとシェアしたり、高級スポーツカーでデートしたり??ほんの少し手を伸ばせば届きそうな憧れの空気感が、トレンディドラマの身上。そのフレーム内で悩み、迷い、笑う中山美穂は、実にチャーミングであった。
しかし、トレンディドラマの波は翌90年、あっけなく終焉を迎える。
木曜劇場枠で放映された「恋のパラダイス」が、トレンディドラマの要素を全て投入する総力戦で挑みながら、平均視聴率14%台に終わったのだ。
そして、ドラマの時代は純愛路線へと舵を切る。10月クール??まさにその先陣を切ったのが、野島伸司脚本・中山美穂主演の月9ドラマ「すてきな片想い」だった。
今度の役は平凡なOL。前作で演じた等身大の役に、更に生活感が加わる。府中のアパートに住み、京王線で通勤する毎日──。
そんなある日、彼女は同僚から男性の電話番号を手渡され、興味本位でかけたところ、意気投合する。が、デートの待ち合わせ場所に現れたその男性は、以前、通勤途中に失態を見られた柳葉敏郎演ずる男性。つい、会わずに帰ってしまう。
そうして、偽名を使って柳葉との電話デートを続けながら、実生活では柳葉と再会し、近所付き合いを始める。お互い好きなのに真相を打ち明けられないもどかしさ。部屋に電話回線を2本引いて、コードを絡ませながら二役を演じる中山美穂のコミカルな姿は、本作の名シーンである。実生活で顔を合わせながら、電話では別人を演じ続ける男女のラブストーリーは、実はスタンリー・シャピロがアカデミー脚本賞を受賞した、1960年の「夜を楽しく」が先駆けである。恐らく野島伸司はそれにヒントを得たのだろうが、本作では中山美穂のモノローグを織り交ぜながら、すてきな10話のラブストーリーへと昇華させている。彼女ほど、モノローグの似合う女優もいない。
そして1年後、中山美穂は三度「月9」に帰ってくる。
おなじみ、伴一彦を脚本に起用して「逢いたい時にあなたはいない…」。ちなみに彼女は、月9史上計7本の作品に主演しており、この数は女優トップである。
今度のテーマは、遠距離恋愛。大鶴義丹演ずる恋人が札幌に転勤し、お互いすれ違い続けながら、悩み、苦しみ、それでも別れられない──というラブストーリー。丁度、JR東海の「クリスマス・エクスプレス」のCM等の影響で、遠距離恋愛にスポットが当たっていた時期。その“カセ”をドラマに盛り込んだのである。
このドラマの鍵は、“すれ違い”。
中山美穂演ずる看護婦は寮住まいで、取次ぎの電話が1つ。それも使用中であることが多く、一方の大鶴のほうも部屋にいなかったりして、2人の電話はなかなか繋がらない。
また、デートの約束も仕事が入ったり、飛行機が遅れたりして、2人は最終回まですれ違い続ける。その間、互いに新しい恋人候補が現れたりして、誤解も生まれる。そんな切ない心境を、本作でも中山美穂がモノローグで綴る。
携帯電話が普及した今の時代ではありえない展開だが、もしかしたら、携帯電話の登場でドラマはつまらなくなったのかもしれない。
そして1年後、中山美穂は、今度は新設された水曜9時枠に登場する。
「誰かが彼女を愛してる」──3年連続のクリスマス・クール。主題歌は大ヒットした中山美穂&WANDSの「世界中の誰よりきっと」である。
この物語は、根津甚八・的場浩司演ずる親子と、中山美穂演ずるヒロインが一風変わった三角関係を繰り広げるというもの。中山ドラマにお馴染みの伴一彦脚本だが、エフェクト好きの光野道夫演出で、これまでとは一風違う、御伽噺のような仕上がりになっている。音楽は千住明。オカリナを使うなど、氏の音楽もまた、物語を幻想的に覆うのに一役買っている。
このドラマのヒロインは、いわゆる不思議ちゃん系。マイペースで楽観的で、お酒が大好き。酔うと、かなり大胆になる厄介な面もある。そんな彼女の魅力に、2人の親子が互いの存在を知らずに振り回される。
このドラマから始まった水曜劇場枠は、共同テレビが制作に携わっていることもあり、以後、月9や木曜劇場枠とも違う、多様性のあるテーマの作品を扱っていく。そうして、一連の三谷幸喜脚本作品や、織田裕二の「お金がない!」などの異色作品が生まれる。
中山美穂という女優を見れば、その時代の空気が分かる。
トレンディドラマから純愛ドラマへ、そして多様性のあるドラマの時代へ──。
1人の女優が、コンスタントに連ドラの主役として活躍し、しかも1つの色に染まらず、変化を続ける例はあまりない。今回紹介した作品以降も、彼女はコンスタントに連ドラに出演し続け、「おいしい関係」では漫画原作の道を切り開き、「眠れる森」ではミステリーを成功させ、最後に主演した月9の「ホーム&アウェイ」では、画期的なロードムービーに挑戦している。
更に、彼女の活躍はテレビドラマに留まらない。
95年、彼女は岩井俊二監督の「Love Letter」に主演し、報知映画賞の最優秀主演女優賞をはじめ、数々の映画賞を受賞する。同映画が岩井俊二の名を一躍広め、その後の日本映画の新しい潮流を作り出したのは疑いようがない。
また、同映画は韓国をはじめとする海外でも上映され、空前の人気を博する。岩井俊二、中山美穂の名は海外にも浸透し、多くの作り手たちにも影響を与えた。あの大ヒットドラマ「冬のソナタ」も同映画をリスペクトして作られたとも言われている。
また、夫である辻仁成の原作で、2010年に公開予定の映画「サヨナライツカ」の監督を、「私の中の消しゴム」の韓国人のイ・ジェハンが担当するのも、彼女のワールドワイドな人気を裏付けている。
時代の変化をほんの少しだけ先んじる。それは、 中山美穂という素材を扱う時に、自然と作り手側が 挑戦してみたくなるのかもしれない。 素材に力があるからこそ、それは可能となる。 その関係は、あの山口百恵と 作り手たちとの関係にも似ている。 最高の素材だ。






